2021年 下期 総合カタログ スガノ農機 株式会社
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斐川流域の谷底平野から氾濫平野への出口付近に位置する水田の断面です。表土(0~35cm)は、周辺の山土を客土したようです。その下に過去の作土層(35~46cm)が続き、下層の灰色層はグライ反応を示し、100cm付近から水が漏出しています。現作土層は小礫を多く含み、土性は砂壌土ですが、旧作土から下層にかけて粘土含量が増しています。土性が粗いことや、旧作土と現作土の透水性の違いから過湿リスクがあるので、明渠等で表面水を強制的に排水することをおすすめします。島根県出雲市細粒質斑鉄型グライ低地土(盛土造成相)岡山平野の水田断面です。18世紀から明治期にかけて干拓され、作土は厚さ15cm、その直下には約3cmの硬盤層が形成されています。下層土の土性は砂壌~壌質砂土と徐々に粗くなり、深さ90cmから砂層となります。深さ50cm位までオレンジ色の斑紋(鉄)が見られますが、その下は斑紋が少なく、やや酸欠状態になっています。水稲連作の場合、作土深の確保と、硬盤層の維持がポイントになります。これらは地面から確認できないので、適当な穴を掘って現状把握することが重要です。岡山県岡山市中粒質斑鉄型グライ低地土調査を行った代表的な土壌断面土を耕すとは?以上、2つの土壌断面をご紹介しましたが、「土壌断面調査」を行うと、過去の土壌管理や土地の履歴、成り立ちを知ることができます。それらの情報を整理して、今後の土づくりの方向性をオーナーに提案することが土壌調査マンの責務であると思っています。その一方、かつては国の事業として土壌断面調査が行われ、農耕地土壌の場合、25haあたり1点の調査密度で国や各都道府県の農業試験場の土壌調査マンが汗水流しながら、土壌断面を作成していましたが、その世代が定年を迎えつつあるため、土壌断面調査のスキルを次世代へ継承することが課題となっています。次に、なぜ“土を耕すのか?”という素朴な疑問について考えてみましょう。人類は、文明の発祥から土を耕し、作物を栽培し、家畜を養ってきました。そして土の不適切な管理によって滅びた文明があることも学んできました。2017年1月、国際連合食糧農業機関(FAO)は「Voluntary Guidelines for Sustainable Soil Management(持続可能な土壌管理のための自主ガイドライン)」を出版し、世界の土壌劣化の脅威を軽減し、食糧安全保障や地球環境保全に関する今日的課題の克服を目指すことを目的としています。何事にもメリットとデメリットがあり、トレード・オフ関係が成立しています。今一度、土を耕した場合の長所と短所を整理してみましょう。土を耕すことにより、土の中に作物残渣・堆肥・肥料などが混ぜ込まれ、土の養分の偏りが解消されます。また、土中に空気が送り込まれ、水が動きやすくなり、微生物活性が促進される一方、病害虫のサイクルも断つことができます。当然、土自体が柔らかくなるので、根域の拡大、発芽環境の最適化、初期生育の確保もできます。さらに耕す際に土中に雑草などもすき込まれるため、除草と同時に有機物の補給にもつながり、良いことだらけのように思います。デメリットとしては、耕すためには当然、様々なエネルギー(労力・機械・時間)を要します。また、土壌有機物の分解が促進され、裸地化による土壌侵食リスクも高まります。耕起後に強雨に打たれると、土壌表面にクラスト(皮膜)が形成されたり、傾斜のある畑では表土が斜面下方へ流出したりします。肥沃な表土への下層土の混入や、昨今は機械の大型化により圧密を受けた層が形成され、根域が制限されるといった状態にある土壌断面をよく見かけます。省耕起栽培(ミニマム・ティレッジ)や不耕起栽培という栽培方法もご存知だと思います。同様に長所と短所の整理をしてみましょう。耕す程度を最小限にする、あるいは、全く耕さないことで水食や風食といった土壌侵食のリスクを軽減できます。また、土壌有機物の分解が抑制され、省力・低コスト化にもつながります。さらに、地耐力が大きいため、天候によらずほ場内で作業が可能となります。しかし、土壌硬度が増したり、湿害が起きやすく、肥料の利用効率も低下したり、病害虫の発生リスク、除草剤の使用量も増加するかもしれません。当然ながら、根菜類の栽培は難しいでしょう。81

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