2021年 下期 総合カタログ スガノ農機 株式会社
103/128

浅水管理と耕起の工夫で被害を軽減●移植水稲での防除対策は?ジャンボタニシによる水稲への被害が確認されてから35年余りが経過し、その間に提案されたさまざまな防除対策が現場で実践されています。乾田直播への切り替えが難しく、移植栽培を継続する場合に、最も取り組みやすいのはレーザーレベラーによる均平と浅水管理です。(1)浅水管理《耕種的アプローチ①》ジャンボタニシが好んで食べるのは、移植直後の2.5葉前後の苗です。ある程度生育した5葉期以降であれば、大きな被害は回避できますので、6葉期までの約3週間に、対策を講じるのがポイントです。入水後は水深が深いほどジャンボタニシが活発に動くので、水深4㎝(理想は1㎝)程度の浅水で管理する方策が推奨されています。田面に凹凸があると、へこんだ場所で食害が発生し、水面から露出した場所には雑草が生えてしまいます。したがって浅水管理においては、ほ場の均平化が重要になります。(2)成苗植え《耕種的アプローチ②》稚苗のように柔らかく小さいイネは、ジャンボタニシの格好の餌食になります。ジャンボタニシが生息しているほ場では、4葉期以上の中苗や成苗を植えることで、被害を軽減できます。セル育苗で頑丈な苗を育てる方策も有効です。(3)水路からの貝の侵入防止《物理的アプローチ》水路から殻高2㎝以上のジャンボタニシが侵入するほ場では、水口に1~2㎝メッシュの金網や網袋を設置してほ場内への侵入を阻止します。(4)薬剤散布《化学的アプローチ》農薬による防除は耕種的なアプローチでうまくいかない場合の選択肢です。具体的な用法は登録農薬をご確認ください。毒餌剤と食害を抑える粒剤があり、条件により効果の違いがありますので、注意が必要です。なお、石灰窒素はイネに薬害が生じるので、栽培中は使用できません。●浅水管理の湛水深の目安は?浅水管理の有効性は、湛水深と被食率から検証されています。1㎡当たり500本の栽植密度で移植された3.5~4葉期のイネが6日間でどれだけ食害されるのかを試験した結果によると、湛水深が4㎝になると被食率が60%を超えます。この研究から浅水管理をする際の湛水深は4㎝(理想は1㎝)程度が目安になります。●均平精度が高いと防除効果も大きくなりますか?施行段階でのレーザーレベラーの技術的限界は±1.5㎝とされています。浅水管理をモデル化した研究では、±1.8~6.0㎝で5種類のパターンを設定し、+4㎝(湛水深が最も田面が高い場所)から-1㎝の間で管理した際のほ場全体での被食率を比較しています。均平精度が高いほど防除効果が大きくなることが示されています。●プラウやスタブルカルチで掘り起こし、 レーザーレベラーで貝殻を機械的に破壊ジャンボタニシは在来のタニシ類に比べて貝殻が薄く、傷つきやすいので、乾田状態で機械的に貝殻を破壊することも防除対策の一つです。活動を休止して土中に潜っている冬季に、プラウやスタブルカルチで掘り起こし、寒風にさらすことで殺貝効果を高める方法も実践されています。レーザーレベラーによる均平作業を、冬季に行なうことで、浅水管理の防除効果を高めるだけでなく、貝殻を機械的に破壊する効果もあります。営農情報ジャンボタニシの防除対策(移植・湛水直播編)プラウで掘り起こすと、ロータリ耕に比べて風通しが良いので、          ジャンボタニシ対策には効果がありますよ 【宮崎県・児玉静雄様】冬にレベラーをかけたほ場は、移植でもジャンボタニシの被害は少なかったよ 【千葉県・宇津木裕幸様】移植・湛水直播では、耕起方法の見直しと、レベラーの均平化が効果的。POINT●最も取り組みやすいのは、移植後3週間の浅水管理●薬剤散布は耕種的アプローチでうまくいかない場合に●均平作業は浅水管理と貝殻の機械的破砕の両方に効く●土中から掘り起こし、寒風にさらす方法も有効<参考文献・引用文献>※5 清水信孝(2015):福岡県におけるスクミリンゴガイの発生の経緯と現状,植物防疫第69巻第3号p155-159※6 農林水産省『スクミリンゴガイ防除対策マニュアル(移植水イネ)』(令和2年10月)※7 牧山正男・伊東太一(2005):スクミリンゴガイ被害の実態と水田浅水管理による抑制効果,農業土木学会誌第73号第9号p793-796水田内のジャンボタニシとイネの被害(※2)-1最凸部から見た湛水深(cm)平均値±6.0cm平均値±5.0cm平均値±3.5cm平均値±2.5cm平均値±1.8cm食害イネ率(%)020406001234水深による水田全体での食害イネ率(※7) 湛水深 被食イネ率 (cm) (%) 完全食害(本) (%) 0 0 0 0 1 14 14 14 2 22 22 22 4 66 46 56 8 90 44 67 12 100 60 806日間で被食されたイネの割合●湛水深と被食イネ率の関係(※7)(※2)▶実験条件 1/5000ワグネルポットに3.5~4.0葉期のイネを10本の密度で栽植 殻高3~3.9㎝のジャンボタニシを1頭放飼▶食害単位 完全食害(茎の3/4以上被食)を1本,その他を0.5本として計算実践者の声102

元のページ  ../index.html#103

このブックを見る